宮尾登美子さんは語っています。「櫂」を書くにあたり、家業「遊郭を営む業」を恥とずっと思い続けていて、「知られたくない」でも「もうこれを書くしかない」清水の舞台から飛び降りる覚悟であったと。自費出版でした。しかしその作品が宮尾さんを、耳目を集め、大舞台に登場させることになります。
「朱夏」に戻ります。「戦争」というものの、一人の人間の体験がここにはあります。たった一人の視点です。宮尾さんには特別の思想もありません。しかし現実をみせてくれます。
「朱夏」の下巻には、「戦時下」にある、どん底に突き落とされた「日常」が書かれています。女はからだを売り、男は賭博、または力のあるものにすりよる。その宮尾さんが見みたものが、何のジャッヂメントもなく、書かれています。