「民衆のアメリカ史」(本の紹介)
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★「以下の記事は、れ組通信NO.276 (2011年1月30発行)に書きました。アメリカ大統領選(2016年11月8日)が近づき、近々感謝祭もやってくるので、私のドキュメントの中に残っていたこの記事が目に留まりました。」
「民衆のアメリカ史」(本の紹介)
ハワード・ジン著、“民衆のアメリカ史”(A People’s History of The United Sates by Howard Zinn)を読んでいるが、ぶ厚い本で、50歳を過ぎてからは目も疲れ易くなり長いこと読めないし、しかも英語で読んでいるのでなかなか進まない。読んだこともすぐに忘れていくので、本の紹介にもならないが、今まで読んだ箇所で記憶に残ったところを書き留めてみたい。
本の裏表紙に著者の言葉が大きくプリントされている。「いつの時代にも歴史が語らない裏面がある。その理由は歴史は特権階級によって残された記録によって書かれているからである」。 ハワード・ジンはトップからの視点ではなく、ボトム(底辺)からの視点で書いている。女性、工場労働者、黒人、インディアン、労働者、移民労働者の立場から書いているので、従来の退屈な歴史書を読むのが嫌いな私にさえ興味を起こさせ、読み続けようという気を起こさせてくれる。
コロンブスのアメリカ大陸の発見から始まる第一章から読み始めたが, 読むとすぐ眠くなって、なかなか読み進まないので一気に飛ばして1930年代の世界大恐慌のあたりから読み始めた。現代史に近づく程読み易くなってきた。最近オバマがブッシュの大金持ちの税金を大幅に減らした法を継承する法律をパスさせた。一番高い税率を払わなければならないのは、一番年収の少ないボトムの人達だという何とも不条理な法である。この本でリッチへの税金減らしの歴史を知り愕然とした。最初に金持ちの税金を減らしたのは民主党だった。
第二次大戦の頃は年間$400,000以上の年収者は91%税金として支払わなければならなかったが、英雄的に称えられている民主党のケネディの時代に70%に減らし、共和党のレーガンの時代には50%になり、1986年に共和、民主、両党のスポンサーの税金改正で何と28%にも引き下げられた。現在は何%かは定かではないがもっと低くなっていることには間違い無い。最近では両党が共同で年金の受理を69歳に引き上げ、65歳以上の人や身障者への健康保険、福祉をカットしょうという動きがあり憤りを感じる。
金持ち、大企業に癒着しているのは共和党で、民主党は少しましだというのが民主党を指示している中堅アメリカ人の一般的な考えだが、第二次大戦あたりから、アメリカは世界最強国にのし上がり、民主党も共和党も軍部を強くし、軍事的、経済的に強国にすること(50%以上の年間予算が軍事に使われている)、大企業と大金持ちを喜ばせることにのみ専念している。 一方では教育、福祉などをカットし、一般のアメリカ人の生活はますます苦しくなってきている。
国外では世界中の独裁者を支持し、資金を送り、軍事援助をし、民衆から生まれたリーダーによる民主政治を抑圧し(チリ、ニカラグア、エルサルバドル、グアテマラなど他に無数)、独裁政権による民主的リーダーの暗殺、民衆の殺戮を支持し、アメリカ国民には他国の民主主義を守る為と大嘘をつき、メディアも真実を伝えないので大多数のアメリカ人は無知のままでいる。最大の理由は他国を政治的、経済的に自国の支配下に置くことである。近年では軍事産業が大きく伸び、世界中の貧しい国に軍需品を売り、大幅な利益を得ている。 アメリカ合衆国は階級社会であり、トップ1%が40%以上の富を有し、3~4千万人が貧困に喘ぐ社会である。民主党は貧しい人達に共和党より援助を与える努力をしているが、企業の利益が人間の必要性に優先される経済組織を変える力は, 民主党には無いと著者は言っている。西ヨーロッパ、カナダ、ニュージー・ランドなどの社会民主党(social democratic party or democratic socialist party)はこの国には無いとも。
1992年にコロンブスのアメリカ大陸発見500年を祝う催しが国中で開かれたが、それに反対するインディアンの立場からの運動の広がりが書かれている。ほとんどの歴史書はコロンブスを崇め、野蛮な遅れている大陸に西洋文化をもたらした英雄にしたてているが、コロンブスの一行をギフトと友情で迎えたインディアンをコロンブスは裏切り、誘拐し, 奴隷にし, 不具にし、殺戮をした歴史がもっと一般の人にも知られるようになったことにも本書は触れている。
Thanksgiving Holiday (感謝祭) はアメリカの三大祭日の一つとして祝われているが、真実が伝われていないとして(特に学校での教科書)、問題提起されて来ている。最初にアメリカに到着した船、メイ・フラワー号に乗って来たPilgrims (巡礼者)の半分は厳冬や疫病で生き延びれず、生存者はアメリカ・インディアンの一族から川魚の取り方、とうもろこしの栽培、銀杏の木からの樹液の取り方、野草の知識などを学び、共に寒い冬を生き延び、それを三日間に渡って祝ったのが感謝際の始まりである。しかし初期の入植者とアメリカ・インディアンの間に長年に渡る血なまぐさい争いがあり、インディアンが何百万人もが殺されたという歴史が伝えられていなかった。感謝際をNational Day of Mourning (死者を哀悼する休日) とし、従来の感謝祭に異議を唱える人達が1970年以降Plymouth Rock(1620年にメイ・フラワー号が上陸した歴史的場所を示す岩石)を展望する丘で集会を催し、同様なイベントが他の場所でも行われている。
話が飛ぶが1930年代と1960年代が、アメリカ政府が国民の福祉に一番集中した時期であり、それ以前以降、こんな時代は無いとも著者は言っている。どちらの時代も民衆の革命、反乱を恐れた政府の対策だった。1930年代は大恐慌で逼迫した民衆による暴動が今にも起きそうだったし、1960年代は黒人の公民権運動に端を発した、women’s movement(女性運動), gay movement(同性愛者権利獲得運動), labor movement(労働運動)、ベトナム反戦運動など革命が起きる要素がたくさんあった。
「アメリカ、自由な国」というのが、世界中の人にイメージとしてある(あった?)が、そうしたアメリカのイメージを覆す歴史書である。著者にはまだまだ続きを書き続けてもらいたかったが、残念ながら昨年(2010年)、88歳で亡くなっている。 (アメリカ在住)
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