映画「キャロル」を見て
笑夢
約3週間前に映画「キャロル」を見に行きました。感想は「とても素晴らしい」の一言でした。今まで見たレズビアン映画の中で一番良かったと思いました。何がよかったと言うと、レズビアンの恋愛を誇張なく描いていた点です。観客の受けを狙ったかのような極端な描き方とは縁遠く、とても自然でした。これこそまさに普通のレズビアンの恋愛。このような描き方こそ、私が待ち望んでいたレズビアン映画の描き方です。
背景は1950年代のアメリカ。20代女性と裕福な人妻が、デパート店員とお客として出会います。タイトルのキャロルはこの人妻の名前です。互いに好意を抱くふたりですが、若い女性にはボーイフレンドが、人妻には小さい娘がいて、離婚を拒む夫と弁護士を立てて係争中。ふたりは果たして結ばれるのか?!さまざまな紆余曲折を経てハラハラさせられるのですが、やがてどちらも過去の生活を捨て、それぞれが自立の道を歩み出そうとします。そしてやって来るエンディング。セリフがないにもかかわらず、これからの未来を二人の表情が物語って余りある。このように余韻をもたせて映画は終わります。この終わり方が素晴らしい!
それと50年代設定だからかもしれませんが、セリフがとても聞き取りやすかった。発音が明瞭でスピードもゆっくり。キャロルの階級が上のせいもあるでしょう。また登場人物の中では、キャロルの女友だちもよかった。夫との交渉に追いつめられるキャロルを支えます。まさにシスターフッド!それがよく描かれています。
監督はゲイであることを公表しているトッド・ヘインズと言う人。過去にやはり50年代が舞台で、夫がゲイだと分かった妻が主人公の映画「エデンより彼方へ」も作っています。私はこの映画も好きです。「キャロル」の原作はアメリカの女性ミステリー作家、パトリシア・ハイスミスの「The Price of Salt」。フランス映画「太陽がいっぱい」も彼女の原作です。
最初、私は「キャロル」はミステリーだと思っていましたが違いました。これは完全な恋愛もので、ハイスミスが実際にデパート店員をしていた時の体験を基に、1948年彼女が20代の時に書いたものだそうです。ハイスミスはレズビアンであることを公表せずに亡くなり、「キャロル」も別のペンネームで書かれました。ハイスミス唯一のレズビアン小説ということですが、これは当時100万部を越える大ベストセラーになったということです。このあたりの情報は「キャロル」の翻訳者柿沼瑛子さんが書かれた記事(下のリンク)を読んでわかりました。これらの記事はとても興味深く、小説「キャロル」だけでなくハイスミスのこともよくわかるのでお読みになることをお薦めします。
柿沼瑛子さんの「キャロル」に関する記事:
・2015-12-08 パトリシア・ハイスミス『キャロル』
http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20151208/1449531766
・2012-07-06 第31回はパトリシア・ハイスミスの巻
http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20120706/1341526726
なお映画「キャロル」上映館は現在、東京都内では、角川シネマ新宿と、渋谷シネパレスのみになってしまいました。それぞれHPでは4月8日までのスケジュールを掲載。9日以降は確認して下さい。見たい方はお早めに。
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