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14年09月22日

懐かしの映画、 「噂の二人」 

M (アメリカ在住)

この夏、“噂の二人”のDVDを見た。図書館から借りたのだが、以前見たことがある映画なのでしばらくほっておいて、すぐには見ないで他のDVDを先に見ていた。返却日も近づいて来たのでようやく見ることにした。この映画はアメリカの劇作家、リリアン・ヘルマン(1905-1984年)の戯曲、“子供の時間、原題Children’s hour” が原作である。1934年にブロードワェイで劇として演じられた。日本にいた20代の頃、翻訳が出ていないので原書で読んだこともあった。大体のあらすじは知っているのでそれ程期待していなかった。一方の女性教師がもう一人の女性教師を好きになり、ある生徒が噂を広めて、レズビアンであったと思われる女性が最後に自殺をしてしまうという内容で、一昔前の悲劇に終わるレズビアン・ストーリーくらいにしか考えていなかった。

 

ところがである。この映画を見ていて、マーサ(シャーリー・マクレーン)がカレン(オードリー・ヘップバーン)に自分の気持ちを伝える場面で、私は身体中でじーんと感じて涙を流した。10代の頃、女の子ばかりを好きになる自分は他の人とはどうやら違っているという感覚を最初は薄ぼんやりと持った。年齢が進むにつれて(高校生くらいになると)確信を持った。でもこのことは誰にも言ってはいけないことだと本能的に知っていた。将来どう生きていったらいいかという漠然とした不安があった。その頃の自分とマーサが重なった。

 

この映画は1961年に製作された。カレンとマーサは17歳の時からの親友で、共に女生徒ばかりの寄宿学校を経営していた。美しいカレンには恋人がいて、最近婚約したことをマーサに伝えた。その話を聞いたマーサは自分でも何故か分らないが不機嫌になった。カレンの恋人(婚約者、ジェームズ・ガードナー)にも、ぶっきらぼうで不自然な態度をいつも取っていた。この寄宿学校には手におえない悪がきのメリーがいた。彼女は地方有力者の孫娘だった。カレンとマーサにいつも叱られたり、注意されているし、この寄宿学校にいたくないと思っているので、何とか仕返しをしたいと企んでいた。

 

ある晩、マーサと彼女の叔母(彼女もここで時々教師をしていた)の会話をメリーは盗み聞きした。話の内容はこんな風だった。“マーサ、あなたはカレンに嫉妬しているんじゃない? いつも最近機嫌が悪いわよ・・・・彼女のフィアンセがここに来る時は特に・・・あなたの態度はUnnatural(不自然)よ・・・”。メリーはこの会話にヒントを得て、尾ひれをつけて話をでっちあげ、祖母に伝えた。“マーサとカレンは愛し合っているのよ。二人がキスしているとこを見たことがある・・・マーサの叔母さんがマーサに、二人の関係はUnnaturalだと言ったのを聞いたの・・・”

 

最初は半信半疑だった祖母は次第に孫娘の話を信じるようになった。噂が町中に広がり、保護者が子供達を引き取りに来て、やがて学校はマーサとカレンだけになった。二人の教師としてのキャリアを壊され、友情関係もぎくしゃくして、人目を避けてひっそり暮らしていた。カレンは彼女とマーサとの関係に少し疑いを持った恋人との婚約を解除した。マーサはそのことにも罪悪感を感じていた。

 

 

私が強いインパクトを受けた場面は、周りから見捨てられて寄宿学校に二人だけになって住んでいた時のマーサとカレンの会話だった。マーサは今まで自分がカレンに恋愛感情を持っていることに気づかないでいた。ところが一生徒によって、二人は恋愛関係にあるという噂が流れた時、今まで押し殺していた感情がどっと溢れ出て、カレンに愛を打ち明ける。この場面が何ともいい。気持ちを抑えきれなくなったマーサはカレンに昂ぶった声で訴える。“Listen to me!!  I loved you the way they said!!…… I cannot keep it to myself any longer!!……” (私の言うことを聞いて!! 私はあなたを愛しているのよ!! あの噂と同じ風にあなたを愛しているのよ!! もう自分だけの中にこの気持ちを閉じ込めておくことは出来ないわ!!)……….I never felt that way about anybody but you………I never loved men………..(あなた以外に今まで誰も好きになったことはなかったわ・・・・男の人を好きになったこともなかった・・・)。

 

カレンは驚き、マーサは疲れているだけだと、マーサの気持ちを打ち消そうとする。この場面のシャーリーン・マクレーンの熱演は素晴らしく、私は今まで特に彼女のファンでもなかったけど、この映画を見て、シャーリーン・マクレーンのファンになった。ヘップバーンは個性的な美人で、シャーリー・マクレーンはどこにでもいそうな、それ程美人でも無く、親近感を感じる容貌だが、かえって私は彼女の方に親しみを感じた。マーサ役は親友の女性を好きになった苦しみを演じ、カレン役より演技力を要していたけど、マクレーンは見事に演技していたと思った。

 

二人が同性愛だという噂が流れ、街の人達の偏見が露骨になった。若い男達がトラックでやってきて、門の外から学校の中をじろじろ見たり、食料配達人の男性が二人を奇人変人を見るように見たりする場面もある。

 

この映画が作られた1961年頃はアメリカでもゲイ・レズビアンへの偏見はものすごかったとパートナーのマーディは言う。日本でもその後もずっと性倒錯という言葉で表されていた。69年のニューヨークでの「ストーンワォール反乱」が転換期で、その後ゲイ・リバレーション・ムーブメント(ゲイの権利獲得運動)が活発になり、前進、後退を繰り返しながら、ついに2013年には連邦政府が同性婚を認めるまでに前進した。長い道のりだったけど、あの当時からここまで来られたことは素晴らしいことだと思う。

 

リリアン・ヘルマンはミステリー作家のダシール・ハメット(男性)と30年に渡る共同生活と別離を繰り返したが、バイセクシャルだったという噂がある。女性との恋愛関係もあったから、こういう作品を書いたのであろう。アカデミー賞受賞の1973年の映画“ジュリア”は彼女とジュリアとの長期の友情が描かれているが、ジュリアとは恋人関係だった時もあったらしい。“ジュリア”はヘルマンの著作、“ペンティメント”に収録された作品を基礎にしている。(続く)

 

★次回はリリアン・ヘルマンが“子供の時間”を書くのにヒントを得た、1810年にスコットランドで起きた実話と私のパートナーの若い頃の苦い体験を書きます。

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